鬼喰
- たまはみ -

第一話 邂逅

第四章 二

 ちなみに彼のご両親やご家族にはお会いしたことがないのでわからない。
 彼と同じようにその存在を確認できないか、それとも既に喰われてしまったのか。

「あんたは平気なのか」
 ふと気がついたように志野くんが問う。
「わたしには守護者がいないからね」
「いない?」
「うん。昔から。たぶん生まれたときからじゃないかな。そのかわりに見えるんだよね。見えないと危険だから、ってことかもしれないと最近は思うんだけど……仮説だよ。わたしの」
「それで、大丈夫なのか」
「こうやって生きてられるってことは、大丈夫なんだろう。きっと」
 肩をすくめておどけて見せると、彼は何と、かすかに笑った。
 気楽なひとだな、と呆れたように呟く。
 その安堵の表情に、わたしはわたしのことばが彼にもたらしたものを遅ればせながら知った。

 守護者がいなければ、または失われれば、人は自己防衛の力を発揮する、ということ。

 つまり、志野くんが誰かの守護者を喰う事態になっても、守護者を喰われた人間にすぐさま生死の危険が迫るわけではないのだ。志野くんが生きている人間や動物に悪影響を与えるとしたら、対象の精気を喰ってしまうことだけである。
 そして精気を喰われて亡くなった二人の死因は、一方は転落による外傷であり、他方は眠りから目覚めるまで体力が持たなかったというだけで、志野くんに直接の原因があるのではない。

 正気を失った霊能者も、在りえない事態を前にした恐怖で自ら正気を手放したのであって、志野くんが狂わせたのではない。現にわたしは鬼喰の現場を目撃してその場では失神したが、いまだ正気を保っている。言い方は悪いが、仮にも霊能を生業にしている人間が超常現象を恐れるなど笑止千万。恐ろしさのあまり狂気に陥るなど、あまりにも見苦しい。大方、多少見鬼の力を持っただけの、自称霊能者だったのだろう。気の毒と言うよりは、自業自得、身からでたサビ、身の程知らず、墓穴を掘るといった感情しか持てない。恐怖を感じるなら、それを売り物にすべきでない。高所恐怖症ではトビにはなれないし、火薬がこわくては花火職人にはなれない。蕎麦アレルギーならそば屋になれないし、魚が食えないならすし屋になるべきじゃない。それと同じことだ。だからわたしは実家を継がなかったのだ。
 わたしがことばにしなかったそれらを彼は感じ取ったのだろう。表情を緩めた少年はわたしを見る。
「こわくないのか」
 君が? それとも見えている鬼が?
 とは、わたしは聞かなかった。
「君はこわいのか、志野くん」
 逆に聞き返す。案の定、彼は烈火のごとき怒りに顔を染めた。
「こわくない! 理由がわからなかったから、戸惑ってただけだ」
「ふうん、そう?」
「それと志野『くん』ってのはやめろ!! 俺は子供じゃない!」
「そうかなぁ。神主さんだってそう呼んでたよ」
「うるさい!」
「それに君はわたしのことを『あんた』って言ってるじゃないか」
「うるさい、うるさい、うるさい!!」

 かくしてわたしは彼を志野と呼ぶことになった。彼は相変わらずわたしのことを『あんた』と呼んでいる。

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