鬼喰
- たまはみ -

第一話 邂逅

第六章 二

「!!」
 振りかえる間もなく、わたしは凄まじい力で弾き飛ばされた。
 突然の横槍に腹を立てたらしい蛇は、わたしを尾で弾いたのだ。
 背中を地面にひどく打ちつけた。肺の中の空気がたたき出される。
 転がされたわたしがその衝撃から立ち直る前に、蛇の顎はわたしを砕くはずだった。
 ガッ
 しかし蛇の牙を受け止めたのはわたしの身ではなかった。
「なっ」
 しりもちを突いたような格好で座り込んでいるわたしのすぐ足先の土が盛り上がり、太い根が現れる。その太い根を蛇は噛んでいた。
(邪魔を、邪魔をするのか。我の邪魔を……!!)
「桜……の、根?」
(おさがりなさい、和。あなたの敵う相手ではありません)
 ひゅん、としなった桜の枝がわたしをさらに後方に跳ね飛ばした。飛ばされた先は柔らかな土の上で、わたしにそれほどダメージはなかった。
(ながきに渡り共に在った我を裏切るのか)
 蛇が桜の幹を尾で打った。衝撃が大地を伝う。しかし桜は倒れない。
 代わりにその枝の一本が鞭のように伸び、蛇の首を強く撃った。
(この地の気を乱す者よ。この地を守ることがわたしの務め。疾く去れ)
 再度桜を打ち倒そうとする蛇の動きが不意に止まった。
「おい、蛇!!」
 志野の声にわたしは志野の倒れていた場所に視線を転じた。
 しかしそこには志野が打ちつけられたくぼみがあるだけで、志野はいない。
 どこだ!?
 探すわたしはその姿を意外な場所で見つけた。
「蛇、おまえの相手は俺がする」
 蛇の頭上、首に両足を巻きつけて彼は蛇に組み付いていた。

 組み付いたまま、志野は木刀で蛇の後頭部を乱打する。蛇は尾で志野を払おうとするのだが上手くゆかない。 それどころか自らの尾で自らの身を打ってしまう。
(おおお、お……よくも、よくも!!)
 蛇は頭を大きく振り、志野を投げ飛ばした。
 飛ばされた志野を桜の枝が受け止める。
「助かった。感謝する」
 そっと地面に彼を降ろした枝を二度撫で、志野はさらに前に進んだ。
「喰う。実体があろうがなかろうが、喰う。マムシドリンクにしてやる。てめえは俺の栄養剤だ!!」
 ちがう、志野。そいつはマムシじゃない。
 そう突っ込むのも、役立たずとしては気が引けて、わたしは桜に守られながらはるか後方で座っていた。
 志野の宣言に蛇が大きく口を開けて飛び掛る。
 一呑みにされるかと目を覆うわたしの予想に反して、志野はその一撃を避け、蛇の後方へと走り抜けた。走りぬけついでに蛇の尾の先を剣で撃つ。追いすがる蛇の頭を踏み台に跳躍する。再び首に取り組もうとするのだが。
 志野は蛇に巻き取られた。
(ようもやってくれたな)
 絡めとった志野をぎりぎりと締め付けながら蛇は志野の目を覗き込んだ。
(どうしてくれようか)
 しゅるしゅると音を立てながら、その舌で志野の顔をさぐる。
 相手にならないと分かっていても、わたしは立ち上がり、志野を助けようとした。
(手出しは無用です)
 桜の根がわたしの前を阻む。
「桜! どうして」
(手出しは無用。そこに居なさい、和)
 有無を言わさぬ口調に、わたしは少なからず気持ちを逆なでされた。いかに役立たずといえど、この場を見過ごすことなどできはしない。
「放っておけと言うのか。そんな忠告は聞けない」
(忠告ではありません。仕方がありません。おとなしくしていてもらいます)
 突然地面が盛り上げる。桜の根が、檻のようにわたしの周囲を取り囲んだ。
「志野、志野!! 出せ、桜、ここから俺を出せ」

≪Prev Top Next≫

index

----------------

動作確認環境
Docomo FOMA N901iC

花明かりの庭 Mobile

Copyright2007 Hachisenka
All Rights Reserved.